Name: 【妄想】逆さ撮りパンチラ016 花模様の午後
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其の日の午後、わたくしはひとりショッピングモールの回廊を彷徨していた。春と夏
との境目、空には雲ひとつ見えず、陽は玻璃（はり）の天窓を通じてやわらかく地を
照らし、人々の顔に一様の幸福感を与えていた。

ふと視線を巡らすと、一人の婦人が、陽の光を背にして、静かに歩いておられた。年
の頃は三十前後であろうか。その身には、白地に藍と紫の花を咲かせ、ところどころ
に黒き点をちりばめた、風趣豊かなワンピースを纏っていた。その衣は季節の風にゆ
るやかに靡き、いかにも涼やかであった。まるで梅雨明けの空に浮かぶあじさいの花
を、一枚の布に封じ込めたかのようである。

彼女は右の肩に黒きストラップの鞄を提げ、左の手にはストライプ模様の紙袋を、右
の手には買い物籠を持ち、それらを煩うことなく、軽やかに歩を進めていた。紙袋の
色は淡き紅と白とが交互に並び、まるで過去の記憶を呼び覚ますかのような可憐
さがあった。

背景には、手毬のように愛らしい雑貨や、誰かの記念日を祝うためのギフトたちが、
棚の上に整然と並べられていた。彼女の歩みはそれらの品々と調和し、まるで一幅の
絵の中に迷い込んだような趣があった。光はすべてを包みこむように柔らかく降り注
ぎ、彼女の手元を、そして布地に浮かぶ花模様を、ほんのりと照らしていた。

わたくしは思わず足をとどめ、その光景に見入った。あの婦人が何を求めてこの空間
に身を置いているのか、わたくしには知る由もない。しかし、その姿に表れる静けさ
と充実は、日常のなかにあって得難い幸福の形であろう。

凡（およ）そ人生に於いて、「買い物」という行為がここまで上品な悦びを伴うとは、
予想だにしなかった。あの短き邂逅のなかに、わたくしは、物を選ぶことの尊さ、季
節を纏うことの喜び、そして、何より、ひとときの静謐なる自分自身との対話を垣間
見たのである。

われ知らず胸の奥に淡い感慨を残しつつ、わたくしは再び回廊の向こうへと歩き出し
た。買い物袋の花模様は、尚も視界の片隅で、静かに揺れていた。

枚数：5枚
サイズ：2836×1920(画像によりサイズ違いあり)